東京地方裁判所 平成3年(行ク)41号 決定 1991年9月19日
申立人 朝木明代
相手方 東村山市議会議長 遠藤正之
右訴訟代理人弁護士 奥川貴弥
主文
一 本件申立てを却下する。
二 申立費用は申立人の負担とする。
理由
第一本件申立てに関する事実経過
一 東村山市議会議員である申立人は、平成三年九月六日、同市議会議長である相手方に対し、東村山市議会会議規則(以下「会議規則」という。)四九条二項に基づき、同市議会の平成三年九月定例会(以下「本件定例会」という。)における一般質問の要旨の通告書(以下「本件通告書」という。)を提出したところ、同日、相手方は、申立人に対し、本件通告書を不受理とする旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。
二 申立人は、同月一七日、当裁判所に対し、本件処分の無効確認を求める訴え(以下「本案訴訟」という。)を提起するとともに、本件処分の執行停止を申し立てた。
第二当裁判所の判断
一 まず、本件執行停止の申立てが行政事件訴訟法二五条三項にいう「本案について理由がないとみえるとき」に当たるか否かについて判断する。
申立人の本案訴訟における請求は、本件定例会の一般質問に関し、相手方が会議規則四九条二項によりあらかじめ定めるべきものとされている通告書の提出期限を定めていないにもかかわらず期限徒過を理由として本件処分をしたため、申立人が本件定例会で一般質問をすることができなくなるとして、本件処分の無効確認を求めるというもので、要するに、地方自治法一〇四条に定める地方議会議長の議事整理等に関する権限に基づく行為の適否を問題とするものである。
ところで、自律的な法規範を有する社会や団体内部における当該規範の実現行為の適否の判断については、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない当該団体等の内部的な問題にとどまる限り、内部規律の問題として、その団体等の自主的、自律的な解決に委ねるのが適当であり、このような内部規律に関する係争は裁判所の司法審査の対象とはならないものと解するのが相当である。
現行の地方自治制度においては、地方議会にはその運営等について広範な自律権が認められていることはいうまでもないから、その内部における権限行使の適否に関する問題については、議員の除名処分のような議員の身分自体の喪失に関する重大な事項等は別として、原則として当該地方議会の自主的、自律的な措置に委ねるのが適当なものと解されるところである。なかでも議事の運営に関する事項は、地方議会の自律的権能が最も重視されるべき事項の一つというべきものであり、しかも、申立人が本件処分により本件定例会において一般質問をすることができなくなったとしても、その効果は市議会内部での議員としての活動に関する一時的かつ部分的な制約にとどまるものであり、これが一般市民法秩序に直接関係するものでないことも明らかである。
そうすると、申立人の本案訴訟における請求は司法審査の対象とはならない事項をその内容とするものといわざるを得ないから、結局、本件執行停止の申立ては「本案につき理由がないとみえるとき」に当たるものというべきである。
二 よって、本件申立ては、行政事件訴訟法二五条に定めるその他の執行停止の要件の有無の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 小池裕 近田正晴)